デザインとアフォーダンス
先日、渡邊恵太著の『融けるデザイン』という本を読んでいたのですが、心に引っかかる言葉が出てきました。それは「アフォーダンス」という言葉で、本の中で丁寧に解説されていたのですが、うまく理解ができませんでした。調べていく中で考えさせられるところがあったので、ここにまとめてみようと思います。
アフォーダンスの定義
アフォーダンス(affordance)とはアメリカの知覚心理学者J・J・ギブソンによって作られた造語です。ギブソン氏はThe Ecological Approach to Visual Perceptionというタイトルの論文の中でこのように述べています。*1
(拙い超訳ご容赦ください…)
The verb to afford is found in the dictionary, but the noun affordance is not. I have made it up.
affordという動詞は辞書の中で見つけられるが、affordanceという名詞は見つけられない。私の造語だ。
さて、それではアフォーダンスとはどういう意味なのでしょうか。
ギブソンは同論文でこのように述べています。
The affordances of the environment are what it offers the animal, what it provides or furnishes, either for good or ill. *1
環境のアフォーダンスとは、良くも悪くもその環境が生き物に提供し、供給し、備え付けるものである。
また、先ほど言及した『融けるデザイン』の中で、著者の渡邊氏はこのようにアフォーダンスという用語をまとめています。
アフォーダンスとは、「環境にある行為の可能性」を示す言葉である。*2
噛み砕くと
定義だけ読んでも私の頭の中は??マークでいっぱいでした。
ここで上でも引用したギブソン氏の論文を読み進めてみると、噛み砕いて説明してくれている箇所が見つかりました。
以下は、ギブソン氏が真っ直ぐで広くて硬い物質でできた地面のアフォーダンスについての解説したものです。
It is stand-on-able, permitting an upright posture for quadrupeds and bipeds. It is therefore walk-on-able and run-over-able. It is not sink-into-able like a surface of water or a swamp, *1
(その地面の上では)二足歩行の生き物も四足歩行の生き物もまっすぐに立つことができる。したがって歩くことや走ることもできる。水や沼地の上のように沈み込むことはできない。
言い換えると、真っ直ぐで広くて硬い物質でできた地面は生き物にまっすぐ立ったり歩いたり走ったりする選択肢を与えるということです。affordという動詞を使ってルー大柴のように説明すると、真っ直ぐで広くて硬い物質でできた地面のおかげで、生き物はまっすぐ立ったり歩いたり走ったりすることがafford(できる余裕がある)になるということです。
デザインとアフォーダンス
渡邊恵太氏は、ギブソン氏の生態心理学がインターフェイスを考える上で有用であると説明しており、従来の脳や心を前提にした心理学と比較してギブソン氏の主張を以下のように説明しています。
一方で、ギブソン自身は「直接知覚論」を展開する。環境は「情報」が構造化されているものであると捉え、そういった環境の中で人間が知覚・行為することで、意味や価値が立ち上がってくると考える。環境と人間はひとつのシステムとして成立し、知覚と行為によって環境と人間が接続されているように捉えるのだ。*3
環境と人間、インターフェイスとユーザーのインタラクション。
既存のものを便利にしていくだけにとどまらず、進化してインターネット独自の世界が生まれる昨今、デザイナーが心理学を勉強したり、心理学者がデザイナーになる事例が増えたりするのかななどと考えさせられました。
(引用元)
*1 The Ecological Approach to Visual Perception by James J. Gibson
Chapter 8 THE THEORY OF AFFORDANCES
http://cs.brown.edu/courses/cs137/2017/readings/Gibson-AFF.pdf
*2 融けるデザイン 渡邊恵太著 p.57
第2章 インターフェイスとは何か
*3 融けるデザイン 渡邊恵太著 p.61
第2章 インターフェイスとは何か